文献調査により、高齢者の地理的移動に関する高齢者人口移動転換仮説を検討することとした。 まず市町村レベルにおける1995年及び2000年国勢調査結果に基づいて、55歳から59歳人口が5年後60歳から64歳になった時に増えているかどうか、及び60歳から64歳人口が5年後65歳から69歳になった時に増えているかどうかを算定した結果、949市町村で増えていることが判明した。通常はコーホート人口は加齢とともに減少するので、これが増加を示すというのは、社会増があったと想定される。1990年から1995年においては、社会増と想定される市町村が559だったので、確実に向老期高齢者の流入があったと想定される市町村数は増加したといえる。 次にコーホート分析によって向老期高齢者の社会増があったと想定される市町村に対してファックスと電話によるアンケート調査を行った。回答者は市町村の企画、統計の担当者で、必要に応じて福祉担当者の協力を得た。その結果692の回答を得た。回答率は72.9%であった。その分析結果、向老期高齢者移動については、全人口の増減と必ずしも同調していないこと、農山村と郊外で生じていること、この事実についての認知度が低いこと、住宅地造成・Uターン・福祉施設や病院建設・田舎暮らしなど多様な理由が背景にあることなどが判った。 この調査結果を各市町村に配布して、調査結果の還元を図った。 市町村の地図に統計情報を描く作業を行った。 向老期高齢者の社会増があった市町村率と、社会福祉機能の整備の状況を都道府県レベルで相関分析を行い、現在は高齢者サービス機能の高いところに向けて高齢者の移動が生じている段階であると判断した。 こうした高齢者の社会増が生じる地域社会で再組織化を図る上で、参考になるアメリカのコロラド・スプリングスにあるリタイアメント・コミュニティの「入居契約書」を例示した。
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