研究課題
本研究は、児童養護の今日的課題と展望を明らかにし、今後の児童養護施設における児童処遇の方法論に関する基礎的な指針を得ることをねらいとし、児童養護施設として水準の高い実践を行っている北海道内にある美深育成園に入退園した児童およびその保護者を対象に、児童およびその保護者の抱える問題を把握するとともに、(1)児童の入園時の問題行動の有無と保護者の問題との関連性、(2)児童の入園時と退園時での問題行動上の変化について検討することを目的とした。調査の対象は、美深育成園に1946(昭和21)年から2001(平成13)年にかけて入園および退園した児童909名(男児484名、女児425名)とした。調査項目は、入所児童の性別、措置機関、児童の出身地、保護者の続柄、入園時の年齢、退園時の年齢、在園日数、入園時の保護者の問題17項目(養育困難6項目・虐待等6項目・疾病等4項目・その他1項目)、入園時の児童の問題行動の有無、入園時の児童の問題行動22項目、退園時の児童の問題行動の有無、退園時の児童の問題行動22項目を設定した。その結果、入園時の保護者の問題は、養育困難の領域では、「離婚・別居」が最も多く、次いで「経済的理由」となっていた。虐待等の領域では、「放任等怠惰」が最も多く、次いで「身体的虐待」「心理的虐待」「性的虐待」の順となっていた。疾病等の領域では、「精神疾患以外の長期療養」が最も多く、「精神疾患」「アルコール依存」の順となっていた。入園時における児童の問題行動の有無と保護者の問題との関連性は、男児においては、「問題行動有り群」は「問題行動無し群」に比較して、離婚・別居、身体的虐待、心理的虐待、放任等怠惰、精神疾患、アルコール依存、その他の各項目において、保護者が問題を有する家庭に多いことが示された。一方、女児においては、「問題行動有り群」は「問題行動無し群」に比較して、親の死亡、離婚・別居、長期拘留、就労、身体的虐待、心理的虐待、放任等怠惰の各項目において、保護者が問題を有する家庭に多いことが示された。入園時と退園時の児童の問題行動上の変化は、男児においては、盗み、怠学、喫煙、不登校、いじめられる、嘘を言う・食事をこう・同情をひく、夜尿・失禁、低学力ボーダー、その他の9項目において問題行動の改善が示された。一方、女児においては、盗み、怠学、不良交遊、性的非行、喫煙、不登校、嘘を言う・食事をこう・同情をひく、低学力ボーダー、その他の9項目において問題行動の改善が示された。今日では社会的養護を必要とする児童が質的に変化してきており、深刻な虐待の後遺症を背負って措置される児童も確実に増加している。このような児童の自立支援にも着実に対応できる施設の実践能力を形成していくことが必要とされる。
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