本年度はグループホーム入居者のビデオ映像をもとにオーストラリア「痴呆症サービス開発センター」作成の感情反応評価尺度(ERIC : Emotional Response in Care)の信頼性、妥当性を検討した。ERICでは10分間の観察をもとに感情反応を10カテゴリー(喜び、優しさ、自発的手助け、怒り、不安・恐れ、身体的不快感、促された手助け、悲しみ、創造性、満足感)ごとに4段階で評価し、初めの3つの肯定的感情の合計得点と次の3つの否定的感情の合計得点を算出する。島原市の痴呆性老人グループの協力を得て、入居者の各セッション1人10分以上のビデオ撮影を行い、撮影に承諾した入居者9名について約100場面を対象に感情反応評価を行った。信頼性の検討では、3名の評価者が独立にビデオを見て各場面の感情評価を行い、評価者間の一致度を調べた。その結果、10の感情反応の多くで、評価者間の評価は相関しており、一致度は比較的高かった(スピアマン相関係数0.6〜0.8)。しかし、一部の感情については一致度が低かった(「促されての手助け」「悲しみ」)。肯定的感情に比べて否定的感情の方が、評価者間の一致度が低かった。その理由として、否定的感情の方が出現頻度が少なく評価者間で評価の相違が生じやすいことが考えられた。妥当性の検討として、入居者9名のそれぞれの肯定的感情、否定的感情の合計点平均値(3名の評価者の平均)を算出し、ホーム職員が行ったN式精神状態尺度、N式日常生活動作能力尺度、痴呆性老人生活健康スケールの3種類の評価結果との相関を調べた。その結果、肯定的感情反応は生活健康スケールと強い正の相関を示し、否定的感情反応は負の相関を示すことが明らかになった。また感情反応はその痴呆の重症度やADLとも相関することが示された。以上より痴呆性高齢者の感情反応評価尺度はアセスメントの手段として有効であることが示された。
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