研究の最終年度にあたる平球15年度は、島原市の痴呆性高齢者グループホーム入居者について昨年度までに撮影を行った延べ約90時間の感情表出反応を写したビデオ映像の解析を行うとともに、新たに、岐阜県の特別養護老人ホームにおいて、入居者の日常生活のビデオ撮影を行い、職員の働きかけと高齢者の感情反応の関係についての分析を行った。また、痴呆性高齢者の感情反応に関する日本内外の研究論文を収集して、レビューを行い、痴呆性高齢者ケアにおける感情反応評価の意義を検討した。さらに、感情反応を含めた痴呆性高齢者のQOLを、介護職員が評価するためのアセスメント尺度を開発し、福井県のデイケア施設をフィールドに、その信頼性と妥当性の検討を行い、さらに高齢者の日常生活の特性とデイケア場面におけるQOL評価結果との関連を検討した。これらの研究により明らかになった点を以下にまとめる。(1)オーストラリアで開発された感情反応評価尺度(ERIC form)は、とくに肯定的感情を評価する場合、日本においても利用価値がある。(2)痴呆性高齢者を介護する職員にとって、感情反応に注目した援助を行うことは、言葉によるコミュニケーションが困難な老人に対してもケアの目標設定を可能にし、利用者の個性に配慮した対応を促す点で有用である。(3)我々が新たに開発した尺度に基づく痴呆性高齢者デイケアにおけるQOLの評価結果を分析すると、痴呆症による認知障害をコントロールしても、家庭場面で社会的ネットワークが豊かな高齢者において、デイケア場面で観察されるQOLはより高い傾向を示すことが認められた。
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