本研究は日本に居住する中国、韓国、フィリピン、ペルー、ブラジル系住民のメディア消費の実態の基礎調査をすることで、「日本」という枠組みでは捉えることのできないあらたな「トランスナショナル」なつながり、関係性、帰属意識/アイデンティティーが多文化社会・日本においてどのように生成し構築されているのか考察した。 具体的には、中国、韓国、フィリピン、ペルー、ブラジル系住民がメディアとどう接しているのかについて、当方で作成した質問表をもとに開き取り調査を行うとともにペルー系のインターネットメディア、Nikkeinet-asとフィリピン系活字メディア、The Philippines Todayの制作・内容に関する調査、民放テレビ番組「ここがヘンだよ日本人」の生産・表象・受容分析、地上波商業放送編制担当者へのアジア地域テレビ番組放映の可能性に関するアンケート調査を行った。 調査で得られた主な知見は、1)現在様々なメディアの受容消費が日本国内で可能になってきており、日本(語)以外のメディアに関しては特にインターネットが情報収集や意見交換の場として一層大きい役割を果たしている。2)それぞれのコミュニティーのなかで、年令、ジェンダー、職業、日本語能力・住居年数・地域などでメディア受容に大きな多様性が確認された。3)日本国内の「エスニックマイノリティーメディア」は、人々の国境を越えた往来が頻繁になっていることを反映して、その生産形態・内容ともに日本とそれぞれの国をまたいだ「トランスナショナル」なものになってきている。4)こうしたメディア生産・受容の多様性と越境性は従来の「エスニック」メディアという固定化された括り方の限界と問題を浮き彩りにした。5)また、その一方で、多くから、日本のメディアが言語的・内容的に国内に存在する多文化状況をほとんど考慮に入れておらず、むしろ「外国人」のイメージが繰り返しステレオタイプ的に描かれていることへの強い不満が指摘された。 今後は、複数化する国文化への帰属(意識)、接するメディアの種類との多様さ、様々な社会的属性と社会・文化資本などを横断する多元的な位相を視野に入れて、多文化社会・日本におけるメディアをとおした社会参加・帰属意識とアイデンティティ構築についてのさらなる質的調査研究をしていくことが求められる。
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