本年度の研究の目的は、昨年度までにまとめられた多文化主義とフランス共和制との関係を、パリテ、パポン裁判、コルシカ問題に適用することであった。しかし、平成15年(2003年)3月に地方分権に関する共和国憲法の大幅改正が行われ、さらには、公立学校における「イスラムのヴェール」着用容認の是非をめぐる問題が再燃した。いずれの問題も、本研究に極めて深くかかわっており、研究の内容を修正する必要が出てきた。地方分権に関する憲法の大幅改正は、EU統合におけるヨーロッパ統一基準としての地方分権(欧州地方自治憲章の批准圧力)、参加型民主主義の要求などが理由として考えられる。いずれにしても、「一にして不可分の共和国」の分権化はフランス共和制の姿を大きく変えるものとなるだろう。しかし、研究によってEU地域政策の受け皿としての地域への権限委譲は進む一方、地域住民の参加は立ち遅れていることも明らかになった。「イスラムのヴェール」問題は、学校における「これ見よがしな宗教的標識」の着用禁止を定める「ライシテ法」の制定にまで発展した(2004年2月)。文化的に多様な成員の差異を過度に容認することが、成員相互の共存を困難にするという認識のもと、共和制の基本原則の1つである「ライシテ」の再評価が見られたのである。 多文化主義、パリテ、コルシカ、地方分権などは多様性の尊重という方向でフランス共和制の姿を変えるものと考えられるが、他方「ライシテ法」は共和制原則への回帰という方向を持つ。フランスでは、共和制をめぐる2つの方向性の間の調和がはかられているが、困難も多い。以上のように、本研究は転換期のフランス共和制の姿を追ってきたが、この問題はさらに発展させられるべき課題である。
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