本研究の目的は、社会の近代化が葬儀にいかなる影響を及ぼすかを、比較文化論的な視点から研究しようとするものである。そのためにいくつかの特徴的な地域(国)を選択し、質的な方法で現地調査を実施し、そこで得られた知見を比較した。具体的には、フランス、モンゴル、アメリカにおいて、葬儀業者、遺族、関係者などへのインタビュー葬儀への出席やそれについての聞き取り調査、葬儀会館や墓地の見学などを行い、基礎的なデータの収集に努めた。 各地で得られた知見は以下の通りである。モンゴルでは極めて速いスピードで近代化、都市化が進行している。それに伴い、葬法も風葬から土葬、そして現在では火葬への動きが始まっている。「伝統的な」習俗と考えられている葬送儀礼も、実は社会の変化とともに「発明」されたのである。フランスは比較的早くから近代化が進展してきた。しかしカトリックの教義は火葬への転換を容易に認めなかった。むしろ家族関係の変化が葬儀サービスの需要を生み出していると考えられる。アメリカ社会では葬儀サービスの資本主義化が最も進んでいる。国境や文化を越える巨大な葬儀業者が生まれ、彼らが提供するサービスは多岐にわたり、高い付加価値が与えられている。エンバーミングされた遺体、高価な柩、あるいは葬儀後の心理的カウンセリングや法律相談、さらにはインタネット上のメモリアルサイトまで出現している。 このように葬送儀礼は伝統や宗教から自然に派生し、その形態を保持しているばかりでなく、その社会の近代化や都市化さらには資本主義化の産物なのでもある。
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