本研究は、グローバル化時代における文化価値の政治的価値に対する相対的自律性を、民衆文化の強化・育成の趨勢などに注目しつつ検討する。第1に、国際福祉に関しては、世界諸地域において政治的中心にときには対抗し、ときには協調する、さまざまな原理主義運動を検討した。それぞれの運動がいかなる社会サービスをローカルな場に提供しようとし、提供するためにいかなるグローバル、リージョナルな関係を構築しようとしてきたのかを検討し、研究成果の一部として「グローバリゼーションと世界諸地域の原理主義運動」を公開した。第2に、民衆文化の強化・育成に関しては、ラテンアメリカ地域における、インカ皇帝のスペイン兵による殺害(1533年)を示す野外劇の復興、また、ソ連の崩壊後に生じた中央アジア地域における吟遊詩人の復活など伝統文化の再興に注目した。こうした活動を地域研究の枠組の中で検討するために、世界諸地域を対象に文献研究や映像データから該当する事例を収集している。第3に、民衆文化の表出として世界各地の織物に注目した研究として、西アフリカ地域のナイジェリアやガーナの織物の模様や、織物の技術移転とイスラムのシンボルの移転などに注目し、織物に示される地域文化とその変容を検討した。他の地域においても、地域間比較の視点からインド、アジア、ラテンアメリカなどにおける織物と社会の関係を検討する事によって、当該地域における織物の文化価値と民衆文化が立体的に理解可能となる。 このような形で事例を収集し、グローバリゼーションとの関連で地域文化とその変容を考察するときに、「国境を越えた」リージョナルな広がり、グローバル時代におけるリージョンのもつ意味の浮上を、具体的な形で理解できると想定している。
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