研究概要 |
本研究の中核的問いは「中心市街地の再開発は,都市の景観にいかなるインパクトを与えているのか」,そして「それは,結果的にいかなる社会関係の変化をもたらしているのか」というものであった。この問いに回答を通じて,都市再開発において紛争が頻発する要因を探ることが,本研究の目的である。前者の問いには建築学的景観調査を援用して実査し,後者に関しては環境社会学や都市社会学の方法を用いて分析を加えた。 そこで本研究は,北海道小樽市で生起した「小樽運河保存問題」を事例に,地域社会における再開発過程を分析した。具体的には(1)運河保存運動の展開過程,(2)商業者層の対応過程,(3)景観変化と商店街の定量的変化,という3つの課題を設定した。 調査の結果,(1)道路推進派は,運河を機能を遂行する背景としての「空間」と認識していたのに対して,運河保存派は住民の記憶を宿す「場所」と認識していたこと,(2)こうした両者の空間認識の差異が対話を困難にさせていたこと,(3)商業者は,自らの立場を明確にすることによって顧客を失うことを恐れ,「運河問題」とは関わってこなかったこと,(4)1990年代後半以降,観光化の傾向が地価を押し上げ,歴史的環境が急速に失われてきており,イメージと実態とが乖離してきていること,などが明らかになった。 結論として,「運河保存問題」は,「保存」という後ろ向きな用語とは裏腹に,住民主導による都市景観変化の社会的制御をめぐる紛争であったといえる。このように本研究は,今後の都市再開発政策や「まちづくり」を考える際に考慮すべき点を解明したのではないかと思われる。
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