道の空間構成を「道の文化意味の歴史的重層性」という観点からとらえるために、四国遍路道を具体的なフィールドとし、道の文化の一段面としての「道沿いの水の文化」に注目した。まず平成13年度の段階で選定した、四国遍路道沿いの水の基本的諸形態としての、湧き水、滝、河川、海、温泉などを、遍路者にとっての道空間の基本形態、霊場空間、移動空間、急速空間の3つに便宜的に位置づけ、それぞれの水の文化的意味が、道の形態の変化、沿道生活者の生活様式の変化、巡礼者の移動手段の多様化等を通じて、衰退、生成、変容するメカニズムを明らかにするための調査枠組みを整理し、平成14年度にインテンシヴなインタビュー調査と歴史的資料収集を開始した。その過程で、湧き水(徳島県の霊場空間における「井戸寺の水」、愛媛県の移動空間上の「臼井の水」、「芝の井の水」、「剃りの川」、徳島県の「お杖の水」、香川県の屋島寺付近、大窪寺付近の「お加持水」など)については、近年の衛生保健行政による水質検査の徹底化、上下水道の発達、清涼飲料水の自販機設置などによって、生活用水や飲料水が身近な湧き水に依存しなくなってきた一方では、歩き道としての遍路道の伝統や文化的意味の見直しの動きを背景にして、湧き水や滝(徳島県の「灌頂の滝」)のあらたな整備や伝説的意味の掘り起しなどが活発化している事例などが見出され、河川では、「尻なし貝伝説と橋梁」、さらには高知県、岩本寺付近の河川にかつてあった渡し舟、四万十川の渡し舟、浦度湾に今でも運行されている渡し舟などの事例では、河川に大きな橋梁が建設されることにより、「尻なし貝」という貝の記憶が失われ伝説が無意味化した経緯が明らかになり、渡し舟が廃業に追い込まれる一方、逆に、現代における遍路道文化の見直しを通じて、「水の文化的意味」の新たな生成と伝説化の契機などが幅広く明らかになりつつある。
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