(1)本研究では、「道」を社会文化的に構成される空間としてとらえる視点から、高速文明が「道」の意味を支配する傾向を強めるなかで、現在でも「道」の社会文化的豊かさを再生産しているように思われる「四国遍路道」の空間構成的特質を、道と交差するさまざまな形態の「水」を切り口としてみることを試みた。その際とくに、水の安全性、水の商品化・消費文化化、名水スポットとしての選定などの水に対する現代社会のまなざしの変化と、道沿いの水に対する立場の異なる人びとのパースペクティヴの交錯に注目し、現代社会のメカニズムの中で、水を巡る道空間の文化的意味が重層的に再構成されている様子を、四国全体で19スポットの事例研究を通じて明らかにした。 (2)平成13年度の段階で、四国遍路道沿いの空間的スポットを構成する水の形態(湧き水、滝、河川、海など)と、遍路道空間の類型(霊場空間、移動空間、休息空間)とのマトリックスによって四国遍路道全体から抽出した調査対象候補を位置づけ、現地調査を通じて、主要な研究対象スポットを選定した。その後、平成13年度後半から14年度にかけて、10名前後のスタッフにより、各調査対象地域に数回赴き、歴史的資料収集および現地での住民、業者、行政、霊場関係者等へのインタビューを行った。 (3)その結果、現代の四国遍路道沿いの文化としての水の意味が重層化していく契機、あるいは意味の変容を促す契機についてさまざまな知見を得た。とくに、かつては沿道住民の生活や信仰に重要な意味を持っていた水が、上下水道の発達や自動販売機の普及により、伝統、文化、観光資源としての意味合いを帯びる水へと変化してきつつも、決して元の意味を失うことなく、水を巡る道の文化的意味の重層性の再生産を可能にしていることを明らかにすることができたように思われる。
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