本研究は、脱都市移住という現象をメインの題材に、居住地選択とそれにともなう地域への愛着を考察するための新たな枠組みを構築するためものである。具体的なアプローチとしては、北海道と沖縄という周縁地域に新たな<住>をもとめた世帯の言説であり、流行歌のなかに吐露された心情、そしてCMや雑誌記事などが主たる分析の対象となっている。 結論としては、今日の地域選択において<住>と<旅>とは相互浸透し始めている。しかしこうした日常と非日常の要素が混じり合った<住>をとらえる眼差しにはまだ多くの混乱が見られるのも事実である。80年代以降、過疎に悩む多くの町村が地域活性化の一手段として移住促進政策を打ち出しているが、現実の移住者の<住>意識と当該地域のそれとはかなりの隔たりを見せていることが多く、また地域への愛着のとらえ方にも食い違いが多々見られる。すなわち、<旅>を含む<住>とマジメな<住>、「生まれ落ちた土地への愛着」と「選び取った土地への愛着」という質的相違が、時にストレンジャーとネイティブとのコンフリクトの遠因となっていることが多い。それはひいては、<旅>や観光に対するホスト社会とゲスト社会との認識のずれ、非日常的言説を排除した地平にたつ日常といった問題に敷衍できるものである。 しかし、こうした二元的対立の結節点として、今日の主体的に地域選択をした多くの「よそ者」たちがいる。かれらは様々な形で地域と関わり、地域文化を創造している。すなわち、かれらは本来的な意味での流動化社会の申し子であり、新たな文化創造の主体となっているのである。
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