本研究の目的は、日本の自治体における過去の経験から、途上国の状況に適合的な環境規制のモデルを導出することにあった。一般的に、自治能力が未成熟である途上国では、モデルなくして、自ら有効な環境規制を立案・実行していくのは、困難である。そこで、北九州市と水俣市の環境政策の事例を取り上げ、両事例における規制戦略と政治経済構造、行政の態様など諸条件との連関を解明することを通して、途上国の状況に適合的な環境規制のモデルを導出することをめざした。だが、種々の事情により成果のとりまとめに手間取り、今回は、両事例から導出した条件と、現在の途上国の状況とを照らし合わせ、途上国の環境政策への示唆について考察を加えることとした。 今回の研究から導き出された要因は、次の4つである。第1は、規制対象の側の抵抗などを排して、規制を実行して行くには、自治体幹部のイニシアティブが不可欠である。 第2に、規制を実施していくには、経験の蓄積が不可欠であり、そのために規制に携わる人材が行政に長期的に定着することが必要である。 第3に、途上国では規制対象の側に遵法意識が希薄なことが多く、その際に規制を有効ならしめるには、企業群の組織化と率先して規制に従うようなリーディング企業の存在が欠かせない。 最後に、規制を受ける人々が、自らの日常知に基づいて問題について誤った認識をいだく可能性があることである。そこで、環境規制は、常に人々の生活に基づく日常知のありようを意識しつつ、立案し、実行されることが必要である。 途上国においても、日本における経験から導出されたこれらの要因を考慮に入れつつ、環境規制が遂行されていくのが望ましいと考えられる。
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