平成14年度、昨年に引き続き、原爆、ヒロシマ、ナガサキに関連して作成されている一般映画、アニメ作品などを可能な限り収集した。さらに、映像における人間関係や愛、憎悪などの感情表現を比較対照するうえで、必要と考えるその他の映画作品も収集した。特に、本研究においては、人権、差別-被差別、暴力などをいかに見る側に伝えているのかという意味で、啓発としての映像が解読の中心となる。その解読に必要な作品を選定し、収集した。昨年の学生による感想レポートの詳細な解読は進行中であるが、まず概観的にこれまでの知見を述べておく。一つは、広島で生育した学生が多数にもかかわらず、「原爆の子」「ひろしま」など被爆の現実や悲惨さを正面から伝えようとする映画を見た体験が極めて少ない事が分かる。関連して、学生自身が当時の現実を正面から向き合い把握し、被爆者に対する差別も自らの暮らしに活かす形で理解したいという欲求があることがわかる。学校教育などで平和学習という形で原爆をめぐる表面的な知識や理解は彼らの中でできあがっているとはいえ、それは彼らが生活するうえで、生きた「知」となっていないことがわかる。被爆の現実を直視する事にためらいや率直な否定的意見をいったん持つものの、最終的には「見て良かった」という言説が見られる。いま被爆体験の風化が叫ばれ、その継承の万法にさまざまな工夫がなされつつあるが、今回の感想レポートの解読からは、今一度、当時の惨劇、私たちの普段の想像を超えていく現実を正確かつ詳細に呈示する必要性が例証される。 15年度は、本研究のまとめの年であり、これまで収集した映画、アニメ、TVドキュメンタリーの整理をするとともに私自身の解読を付して、報告書を最終的に完成させる予定である。
|