本研究の目的は、日本・米国・フランスの初等教育においてどのような説明のスタイル(理解の仕方・説明・思考のパターン)が教えられているのか、その特質を作文法と歴史教育の国際比較、および絵を使った認知実験をとおして実証的に検証しようというものである。 研究計画の初年度にあたる平成13年度は、フランスの小学校で使われている国語と作文の書き方、および歴史の教科書の分析を行った。また、調査対象となる初等教育最終学年の作文・国語・歴史教育がフランスの教育全体の中でどのような位置を占めるのかについても、制度と教授法の両面から調査を行った。 具体的には、平成13年10月に3週間渡欧し、フランスの主な教科書出版社5社から発行されている国語、作文法、歴史の教科書を購入し、読み込みを始めた。特に学校で大きなシェアを占めるアシェット社の歴史とブラン社の国語については、小学校1年から高校3年までのすべての学年の教科書を揃えた。またその際、フランス国立教授法研究所のAlain Choppin教授を訪ね、フランスの現在の歴史教科書の特徴、及び教科書が実際に教室の中でどのように使われているかについての聞き取り調査を行った。さらに、ドイツのゲオルグ・エッカート国際教科書研究所を訪ね、研究所所蔵の教科書をもとにヨーロッパ、東アジア、アメリカにおける歴史教授法のパターンの比較研究を行った。日本においては、京都の小学校で歴史の授業観察を行い、教科書研究のワークショップを立ち上げた。 これらの知見として、フランスの歴史教科書では、絵画や写真を通して過去のイメージを問う質問が多いこと、異なる種類の複数の情報が一ページに収められ、教師は生徒に合わせてそれらの情報の取捨選択を行いながら授業をすすめること、ヨーロッパでは日本のように小・中・高校で繰り返して自国史を習うのでなく、時系列で小学校から高校にかけて有史以前から現代までを通して学ぶことなどが明らかになった。さらに、日本では、平成7年以降の劇的な教科書の書き方の変化にもかかわらず、教授法の特徴は以前と変らないことなども観察から明らかになった。
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