プロジェクト最終年に当たる本年度は、継続的に観察を続けた。リヨン市の小学校3校で2週問フォローアップの調査を行ない、さらに今まで調査を行なった社会・経済的にも恵まれた地区の小学校との比較として、リヨン市郊外のトルコ系移民の多い工場地帯の学校で調査を行なうた。また、学校調査と作文実験で掴んだ日米仏の書き方、語り方の特徴の淵源を明らかにするため3カ国の教授法と教科書の通時的調査を行なった。以下に簡略にその結果を述べる。 日本の児童は時系列で出来事を述べて道徳・社会的なコメントで締めくくる作文の強い傾向があったのに対して、米国の児童は、結果から原因を探る因果律の枠組みを使って作文したり説明したりする傾向があることが確認された。フランスの児童は日本の児童のように時系列で出来事を述べながらもその中で理由を述べたり、物語の様式を使ってものを書く傾向が認められた。各国に見られたこれらの傾向は、書き方の指導や歴史の授業における教師の過去の語り方と呼応していた。日本では「共感」によって人物の気持ちや状況を把握する指導を行うのに対して、米国では様々な情報の中から結果に直接結びつく情報のみを選択する「分析力と判断力」が強調されていた。他方フランスでは文法や詩の読み方などの規則を徹底的に教え込むことにより、それを応用して自己の目的達成のために規則そのものを作り変える「批判力」が強調されていたそれぞれの社会で重要とされる「能力」と思考表現のスタイルの間には密接な関係が認められた。 プロジェクトで得られた知見の一部は、2003年の教育社会学会年次総会で発表され、学術誌『教育社会学研究』の論文、歴史教育の国際比較の編著の一章として2003年に出版された。また単著として2004年夏に東洋館出版社より刊行される予定である。さらに詳細な知見については6月に報告書を提出する。
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