本研究は、日本・米国・フランスの初等教育においてどのような説明のスタイル(理解の仕方及び思考表現法)が教えられているのか、その特質を作文法と歴史教育の国際比較、および絵を使った認知実験を通して実証的に検証した。授業観察と実験は、名古屋市・ニューヨーク市・リヨン市の経済社会的に豊かな地区の小学校10校で行なった(名古屋市・ニューヨーク市については1996年に調査済みであり、リヨン市の小学校5校での調査を2002年から2003年にかけて行なった)。 主な結果を要約すると、同じ絵を説明するのに、日本の児童は時系列で出来事を述べて道徳・社会的なコメントで締めくくる強い傾向があるのに対して、米国の児童は、結果から原因を探る因果律の枠組みを使う傾向があることが実験で確認された。これに対して、フランスの児童は、説明は時系列で行う強い傾向があるが、原因を述べるには、直接的な原因を述べた後に時系列で出来事を述べて補足したり、過去の出来事を未来に読み替えたりして、すべての絵を使って局所的な出来事を全体の中に位置づけようとする傾向が見られた。 各国に見られたこれらの傾向は、歴史と作文法の授業に現れる「語り方・書き方」の基本と呼応していた。日本では、時間の経過に沿って出来事を描写しながら、「共感」によって人物の気持ちや状況把握を行う指導をするのに対して、米国では様々な情報の中から直接結果に結びつく情報を選択して他を切り捨てる「分析力と判断力」が強調されていた。他方フランスでは、様々な情報を通時的・共時的に取り込みながら、相反する視点を批判・検証しつつ統合する「統合・総合力」が重要視されていた。 これら一連の調査から、それぞれの社会で重要とされる「能力」とその育成方法(授業法)、そして思考表現のスタイルの問には密接な関係があることが明らかになった。
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