本研究の成果は、研究報告書としてすでに印刷中である。本年度の研究実績はほぼ当報告書の内容をもって表現しうるが、その概要を以下に示す。 まず、安直に用いられる「教育哲学」の概念について改めて吟味し、「教育」の既成の枠組みを素朴に受け入れないことが、「教育」を「哲学」的に考察する要件であることを確認している。そのうえで、<子ども><大人>の意味規定を行なっているが、これは見田宗介・河合隼雄・谷川俊太郎の鼎談『子どもと大人』(岩波書店)を下敷きにし、これを批判的に検討しつつ展開したこともあって、これまでの議論に比して、より明快な形で提示できたと思われる。 さらに、この規定を踏まえて現代に特徴的な傾向として<子ども>性が残存する現象が見られることを指摘し、その例を現代日本におけるさまざまな社会現象・教育現象・風俗現象から取り上げ、コメントした。その際、<子ども>性の残存の原因ないし理由についての考察はきわめて重要であり、これに関して今回は簡潔に概観したにとどまったが、次なる研究へのステップとして貴重な成果を残しえたと考える。 また、以上の研究報告書とは別個に、<子ども>の教育不可能性という問題についても考察した。<子ども>は原理的に善悪の地平にはなく、むしろ<遊>の世界に漂っており、ここから推論されるのは、<子ども>に対して教育することはできず、教育は<大人>にはたらきかけうるのみだという事実である。したがって、子どものなかの<大人>性を醸成することが、教育作用の前提になるという結論を得たが、これは上の報告書の成果と相まって、今後重要な意味をなすと考えられる。
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