日本の教育における常識と非常識をめぐる比較文化的研究

2002 年度 実績報告書

• 研究課題/領域番号: 13610312
• 研究機関: 大阪市立大学
• 研究代表者: 矢野 裕俊 大阪市立大学, 大学院・文学研究科, 教授 (80182393)
• 研究分担者: 岡本 洋之 兵庫大学, 経済情報学部, 助教授 (50351846) ; 田中 圭治郎 佛教大学, 教育学部, 教授 (00081951) ; 石附 実 京都女子大学, 文学部, 教授 (40068721) ; 添田 晴雄 大阪市立大学, 大学院・文学研究科, 助教授 (30244627)
• キーワード: 比較教育 / 常識 / 非常識 / 教育慣行 / 日本教育 / ナショナル・アイデンティティ / 生涯学習 / 学習文化

研究概要

1.本研究は、教育システムにおいて制度や慣行として成立している諸事象を、諸外国の場合と比較・対照させ、そこでの対応や考え方の違いを明らかにして、我が国の教育で常識とされてきたことを疑い、逆に非常識とされてきたことを再考することによって、日本の教育の姿を柔軟でとらわれない視点から見るという試みである。
2.平成14年度は本研究の最終年度として、3度にわたる研究会を開催し、それまでの研究を引き続き発展させるとともに、研究成果のまとめに向けて、研究者相互の研究交流の緊密化・活発化にとくに留意した。
3.本年度の研究により得られた知見はおよそ以下の通りである。
(1)生涯学習社会への移行を課題とする西欧においては、人々の生涯学習活動が学校を中心にして行われ、新しい資格の取得や職業・生活能力の獲得に重点があることに対して、日本の生涯学習は学校外の、文化的活動という性格が今なお濃厚である。前者が生涯学習に社会的統合の役割を期待していることに比べると、日本の生涯学習は個人の自己実現のための活動であり、社会的連帯の形成という視点は弱い。
(2)多文化主義とナショナル・アイデンティティの形成を両立させるという教育的課題は我が国においてはややもすれば対立的にとらえられる傾向があり、欧米と比べると、日本の教育では異なる文化への関心や寛容を促す教育の中でナショナル・アイデンティティの形成という課題があまり意識されていない。
(3)現代日本の学校に定着している制度や慣行の中には、外国の例と対照的で、日本固有のあり方が見られるものも少なくない。そうした例として、スクールカウンセラーの制度や宿題などに注目し、それらをめぐる違いを教育と福祉の関係、学校と家庭の関係のとらえ方の相違に基づくものである。

研究成果

• [文献書誌] 矢野 裕俊: "欧米の総合学習"片上宗二編著、新しい学びをひらく総合学習、ミネルヴァ書房. 32-44 (2001)
• [文献書誌] 矢野 裕俊: "生涯学習社会における学力要件と学力認定制度-大学入学資格検定・中学校卒業程度認定試験との関連で"人文研究. 53巻3号. 115-127 (2001)
• [文献書誌] 矢野 裕俊: "入学と儀礼"教育と医学. 50・2. 143-149 (2002)
• [文献書誌] 矢野 裕俊: "生涯学習における社会資本概念"教育学論集. 28号. 43-48 (2002)
• [文献書誌] 矢野 裕俊: "教育システムの国際比較"埋橋孝文編著、比較のなかの福祉国家、ミネルヴァ書房. 167-197 (2002)
• [文献書誌] 矢野 裕俊: "都市における共生と学びの役割"野口道彦編著、共生社会の創造とNPO、明石書店. 237-251 (2003)
• [文献書誌] Yano, Hirotoshi: "Transnational Competence : Rethinking the U.S.-Japan Education Relationship"Journal of Curriculum Studies. 34-6. 738-740 (2002)
• [文献書誌] 岡本 洋之: "統一と多様化の一致--菊池大麓がめざした研究立国の基調--"論叢(関西学院高等部). 47号. 43-55 (2001)
• [文献書誌] 岡本 洋之: "類別・バランス・使い分け--イギリスの歴史教育における「自国の影の部分」の扱い方をめぐる仮説--"研究談叢 比較教育風俗. 8号(発行予定). (2003)
• [文献書誌] 石附 実: "アジアにおける教育改革の潮流"CS研レポート. 47号. 1-3 (2002)
• [文献書誌] 石附 実編著: "オーストラリア・ニュージーランドの教育"東信堂. 247 (2001)