本年度は研究の3年目にあたり、近い将来これまでの研究の成果をまとめるための基礎的作業を行った。すなわち、3年間に亘る調査によって得られた資料をもとに、学科の「歴史」、「制度」、「人的構成」、「研究」、「教育」、「学生とその進路」に構成し、資料集『東京帝国大学文学部教育学科』の作成を目的として、次の様な作業を行った。 これまで収集した資料から、「東京帝国大学文学部教育学科略年表」を作成した。その過程で、「教育学」が大学の一つの学問として市民権を得ていったのは、中等教員の「無試験検定」制度により、「教育学概論」が必修になった時点であり、大学の教育学もまた、深く教員養成と関わっていたことが明らかになった。制度の面では「五講座拡張」を中心に調査したが、本年度においても制定過程に関する従来の先行研究を越える新たな知見をえるには至らなかった。しかし、当時の教育雑誌記事の収集により、講座拡張に関する世論の一部を明らかにできた。また、本年度はこれまで行った研究室の共同研究『小月小学校外三校学校調査』、『教員養成制度の調査』、『中等教員の比較研究』に関する当時の教育世論の動向を「三学級二教員制」、「中等教育問題」、「高等師範学校問題」に分けて調査した。教育学科創設に行政当局や社会が何を期待し、学科の研究室はどう応えたかを明らかにしようと試みたが、資料を通じて論証するに至らなかった。この他、大学院生が教育学に関わるどのような研究テーマを取り上げているかを調査した。その結果、研究テーマは流行の学説に傾倒している傾向もみられなかった。また、教官の研究関心に左右されているという傾向も特段みられず、かなり幅広い個別な研究をそれぞれが試みていたと推測された。 しかし、今回の調査では教官が学生の研究指導にどのように具体的に関わっていたかを充分明らかにできず、学科における研究者養成の過程を明らかにできなかった。 以上の成果を資料集にまとめた。
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