視覚障害を併せもつ重複障害の人のコミュニケーションを支援し、人権を擁護していく際、視機能に応じた環境整備が必要である。例えば、自己選択を促す場面において、どうすれば、選択肢をわかりやすく提供できるかを決定するためには、その人がどのように世界を知覚しているかを知らなければならない。しかし、視覚障害を併せもつ重複障害の人の場合、どのような情報が利用可能なのかが把握されていない場合が少なくない。そこで、本研究では、言語によるコミューケーションが困難な重複障害児・者の視機能評価について以下の5つの観点からアプローチした。 (1)重複障害児・者の視機能評価の必要性に関する調査:肢体不自由養護学校において、重複障害児の視覚障害の実態についてアンケート調査を実施した。その結果、「光は感じているようだ」、「見えにくさがあるようだ」といった視覚的なケアが必要だと考えられる児童生徒は、4割弱にも及んでいることがわかった。 (2)言語によるコミューケーションが困難な重複障害児・者の視機能評価事例の収集:肢体不自由養護学校、盲学校の重複障害児を対象に、視機能評価を実施し、どのような手法が有効であるかを検討した。その結果、乳幼児の視機能検査用に開発された視力評価手法(TAC)だけでは、評価が困難な児童生徒が少なくないことがわかった。また、視野評価に関しては、従来の医療検査手法が適応できない児童生徒がほとんどであった。 (3)新しい評価手法の検討:従来の視機能評価手法が適応できなかった児童生徒に対して、行動観察や行動分析等の手法を活用して評価を実施した。 (4)評価結果の環境整備への応用:教育機関においては、視機能評価の結果が学習・生活環境の改善に適応できなければ意味がない。そこで、評価結果をどのように環境整備に応用すればよいかについて事例的に検討した。 (5)研修会の実施と報告書の作成:上記の研究成果を研修会等で紹介し、教育現場への普及をはかった。また、報告書にまとめ、関係機関に配布した。
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