四年計画の第三年目にあたる今年は、史料の探索を続ける一方、まとめを視野に入れて論考の執筆に力をいれはじめた。 1.会津地方については、南山御蔵入地方の産子養育にかんする地方文書と宗門人別改帳の比較分析をすすめた。新たに40通以上の支給願いを掘り起こし整理分析を進めている。農家には労働力確保と家の相続から多産を嫌う強い動機があり「余分な」子どもを望まない意識が強いが、村落指導者は産子養育の制度を機能させることに必死に取り組んだ。江戸の少子化をめぐるこの家と村のズレの性格を丁寧に分析したい。また、近世後期の日記史料については、継声館の『田中重好日記』とも重なる時期の高田地方の『天気萬日記』を検討しはじめている。 2.播州農村の研究では、『高関堂日記』に関する論考を2編まとめた。永富家からも遠くない日飼の堀家文書に残る宗門人別改帳と日記の中の子育てを比較分析した。均質的な東北農村に比べて、播州の農村は家族め多様性が大きい。晩婚化や生涯独身者も多く、東北農村とは異質な様相の中でやはり少子化は目立っている。東北のような懐妊調査や養育料支給が見られない代わりに、捨子養育や貰い子の習俗が注目される。数十石を維持する豪農には、一般の農民とは異なる多産主義が存在する。次年度は加古川流域地方の史料の整理分析に力を入れたい。 3.下総の宮負定雄にかんする論文は三編めが発表されたことで、一応のまとまりができた。旧稿とあわせていずれ独立させて単著にまとめたいと考えている。研究の当初には、下総農村の子育て意識を探るために宮負定雄の後期作品に注目した。しかし、民間伝承を採集した彼の説話文学は、もう少し空間的にも時間的にも一地方に限定されない広がりをもっている。農民の子ども観を探る上で、説話文学は極めて大きな意義をもつこと、同時に「三つの地域の比較」という整理には不向きであることが分ってきた。
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