本年度は、中国近代客家系著名人とされている人々についての関連資料文献の収集に努めた。孫中山(孫文)については、関係資料を各地の図書館でコピーに努めるとともに、年譜等を購入した。とう小平についても、図書館での資料収集を行った。また、陳炯明についても、資料の購入と複写を行うとともに、別の研究プロジェクトで訪れた中国広東省海豊県(陳炯明の故郷)では、聞き書きによる調査も実施した。 孫中山については、現在のところ、その生地である広東省中山県翠坑村の孫氏の系譜についてあらためて検討を行うと同時に、洪門会、同盟会、中国国民党における「客家人脈」の存在について批判的に検討を進めている。とう小平についても、その生地である四川省広安県協興郷のとう氏族の系譜を再検討しつつ、その中国共産党内部での人脈、特に広西の百色地区でのソビエト政権樹立工作など初期のその活動で「客家系」人脈なるものが見いだし得るのかどうかを検証している。彼らの「客家人脈」について、客家系の「偉人伝」の類ではまことしやかに流布されているが、現在のところ彼らの実際の活動の中で直接的にこうした「人脈」の存在や「客家」としての自己主張に通じる資料は見あたらない。 陳炯明についても、辛亥革命ならびに彼の指揮した民国期初期の広東の軍閥の中で、彼が「客家系人脈」に連なっていたという直接的な証拠は見いだし得ていない。その生地・海豊県での実地調査でも、故郷の村である白町郷は客家の居住地域ではなく、少なくとも地元では陳畑明の一族が客家系であるという認識はなされていないことがわかった。次年度も、こうした検証作業を続けながら、彼らが「客家」であるとされるに至った過程、および近現代を通じて客家系知識人により客家称揚の言説が形成されてゆく過程そのものを跡づけてゆきたい。
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