1.ライフスタイルと健康の変化:バンクーバー在住の日系人60名(男性30名・女性30名)を対象として、異なる環境下でのライフスタイルの変化、および食生活の実態を明らかにし、その結果がもたらす健康影響について検討した。その結果、「生活習慣病」と日系カナダ人のカナダの食生活への変容の程度との間に有意な関連性が認められた。食生活の特徴としては、米を中心とした主食と、野菜、魚、豆類から構成される副食によって構成された日本食中心となっている。全体的にやや肥満度が高い傾向にあった。分析に当たり、当初は一世・二世・三世による世代間差や男女差などの要因に注目していたが、調査結果をみると全体的に日常生活が英語中心あるいは日本語中心という使用言語を介した場合において、関連項目に有意性がみられた。人間の文化化の初期段階で獲得される行動型である「言語」と「味覚」は、行動パターンのなかで最も文化変容を受けにくいものである。中心的な使用言語が異なるということは、明らかにそこに文化変容が考えられる。ところが食生活をみると、英語使用者・日本語使用者の双方グループ共に「日本食」中心の生活であった。日本的な食生活のみならず、さらに出身県の食生活を維持している傾向にあり「食」がもっとも文化変容をうけにくいということが本調査から指摘できる。2.移住による生活環境の変化が「生活習慣病」に及ぼす影響:上記対象者のなかから調査実施時年齢が30歳以上であった52名(男性25名、女性27名)を分析の対象とし、「生活習慣病」に関して、本人とその血縁者の間の相関関係を分析することによって、これらの疾患に対する遺伝的要因と環境要因の影響を検討した。その結果、本人とその血縁者の間に見られたのは、母子間で有意で、父子間では有意ではないが関連性の存在が窺われる、という結果であった。家族の食習慣は、食事の支度など家庭での食生活に果たす妻の比重が一般的には夫より重いことを考慮すると、母から娘へと母系伝達される、いわば「第二の遺伝」と言えよう。今回の結果には、このような背景の存在が示唆される。
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