本研究は台湾先住民の分類に関して、現在の分類と、被分類者である先住民の分類認識との相違に注目しながら、台湾における「民族」概念や「民族」範疇の形成に関わる歴史的経緯を文化人類学的視覚から明らかにすることを目的としたものである。今年度は、台湾先住民に関する分類がいかにおこなわれたか、あるいはおこなわれているかについて、次の2方向からの検討をおこなった。(1)台湾先住民以外の者-これを本研究では他者と呼ぶ-が、いかに台湾先住民を分類していたのかについて、これまでおこなわれてきた研究者の分類、政府・行政の分類、現地入植者の分類を文書等の資料によって見直していく。(2)台湾先住民側が他者の分類をいかに受け取ってきたのか、被分類者の分類認識について、彼らの社会組織や、現在の種々の活動のあり方などから検討する。 今年度、特に注目して資料を収集したのが、タイヤル族セデックの分類に関する資料である。(1)の他者による分類では、特に明治以降の紛争や隘勇線周辺の実態、先住民に対する台湾総督府の姿勢に注目して、当時の台湾先住民に対する分類認識の資料収集に努めた。(2)の被分類者の分類認識では、セデックのなかに存在するいくつかのグループがそれぞれ他のグループをいかに認識しているのか、(1)民族言語の普及活動等、(2)祖霊祭等「伝統儀礼」の再興や創造に関する活動等を中心に、グループの結合と区別認識に関する資料を収集した。以上の点を中心に日本国内や台湾での文献資料の収集・複写をおこなった。また台湾における現地調査では、セデック群中、タロコ、タクダヤ、トゥダと呼ばれる人々を中心に、インタヴュー調査や参与観察をおこなった。
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