本研究は台湾先住民における「民族」という概念の形成に関して文化人類学的方面から研究がおこなわれた。西暦2000年代になって、台湾先住民族の「民族」名称の正式認定をめぐる動きはさらに活発化してきた。1935年以来承認されていた9族に、昨年度までに2族が加えられたが、今年度もまた新たに1族加わった。本研究で特に注目してきたタロコがそれまでのタイヤル族から分離し、タロコ族として認定されたのである。これに関して、従来、彼らの所在地によって主張する民族名称が異なるという事情から、名称をどうするのかが大きな争点となってきた。すなわち、言語的にみればセデック語を話す南投県のセデックは「セデック族」という名称を主張し、同じくセデック語を話すものの、セデックの下位分類であるタロコの人口が圧倒的に他のセデックより多い花蓮県では「タロコ族」」という名称を主張していた。セデック族とタロコ族の名称問題は、その主張を統合していく組織力作りが花蓮県において早くから行われていた。タロコ族の方が名称として認定されたのはのことも影響している。 いずれの県でも、キリスト教長老派と小中学校等の教員らがつくった組織が、人々の意識の統合に果たした役割は注目される。名称問題で揺れたとはいえ、タロコもセデックも同じ民族であるという意識が依然として強固に存在している。日本の植民地統治下で始まった個々の民族の命名による分類は、いわば他者からの分類と命名であったが、現在は先住民自身の自己認識にもとづく分類と命名が優先されている。名称以前に存在する民族的統合意識、それがいかに組織化されているのかに注目して調査・研究をおこなった。 この他アミ族等の台湾先住民においても、日本時代や自文化の過去の記憶がいかに伝承され、認識されているかに関する調査・研究・考察をおこなった。
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