研究概要 |
平成15年は、年度当初に計画した実施計画に基づき、以下のような調査・研究をおこなった。 (1)本年度は、過去2年間の研究成果を踏まえて、具体的な偽文書作成のパターンを究明し、鑑定技術の年次的な変遷について検討を進めた。そして長野県木曽郡大桑村定勝寺文書の整理作業を継続しておこなった。まず科研費の旅費を活用して、全国各地において偽文書に関する補充調査を実施し、基礎資料となる古文書を採訪した。調査を実施したのは、以下の機関である。(1)山梨県甲府市山梨県立図書館郷土資料室「甲州文庫」,(2)東京都品川区内藤家文書,(3)新潟県小千谷市魚沼神社文書,(4)長野県木曽郡大桑村定勝寺古文書整理,(5)東京都千代田区国立公文書館内閣文庫,(6)東京都文京区東京大学史料編纂所。 (2)調査方法は、大学図書館や博物館、史料保存機関では、古文書の閲覧と必要史料の複写を依頼し、データ収集に努めた。個人の所蔵者宅では、古文書の現状記録作業と目録編成、必要史料のマイクロ撮影、デジタル情報の収集作業をおこなった。つぎに古文書の画像情報を、科研費で購入したデジタルカメラにデジタル化し、パーソナルコンピュータに入力した。こうして構築したデータベースを基礎に、古文書の真偽鑑定を試みた。主にデータベース化の作業をおこなったのは、戦国大名武田氏や徳川氏の印判状の、印鑑および筆跡に関する情報である。鑑定の結果、いわゆる偽文書が作成される経緯・目的・作成時期について様々な情報を得ることができた。 (3)以上の結果、定勝寺については、すべての古文書の目録編成作業を終了した。あとは目録データのデータベース入力だけである。また定勝寺の場合、19世紀の寛政年間に、尾張藩の本山末寺調査と本山妙心寺の間で定勝寺寺内の塔頭の記載をめぐって対立が生じ、その際に証拠として偽文書が木曾家の由緒に関連づけられて作成されたことが判明した。 (4)また19世紀の偽作である「慶安御触書」については、その偽作過程を示す新史料を発掘し、史料紹介することができた。 以上の成果をもとに、いくつかの学術論文を公表した。
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