本研究は近世西日本地域で盛んに見られた漁民の他国出漁に関して分析を行うものだが、その主たる対象地域を対馬に設定している。対馬は、近世期に最も他国出漁の盛んな地域で、その漁業の大部分を他国漁民に依存していた。故に本年度は、対馬藩の藩政文書である「宗家文庫」(長崎県立対馬歴史民俗資料館所蔵)の調査を、平成13年8月27日〜9月1日、平成14年2月11日〜15日の2回にわたって実施した。主として取り扱ったのは、対馬藩の漁業関係を統括していた郡奉行所「毎日記」で、寛文期から廃藩に至る約200年間のほぼ全て、約400冊が現存するが、この中から漁業関係記事の抽出・撮影を進めている。そのうち、現在までに寛文11(1671)年〜宝永2(1705)年、天保元(1840)年〜慶応元(1865)年について、その作業を完了したが、全体から見れば3分の1程度に過ぎず、今後の継続的調査が必要である。収集資料の分析に関しては、「対馬出漁史関係年表」というデーターベースの作成を中心に進めつつ、重要史料の筆耕を行っている。また、こうした現在までの分析をもとに、「近世対馬沿海の漁業と越境行為〜朝鮮海密漁と対馬藩の西目〓規制〜(仮題)」という論文を準備中である。これは、対馬出漁の内、釣漁・延縄漁を中心に取り上げ、これらの漁船による朝鮮海密漁と対馬藩の国境管理の問題を考察しようとするものである。この他、対馬出漁者を輩出した長門・周防地域の関係史料の調査も実施したが、その中で豊浦郡矢玉浦(現在は山口県豊北町)の内田家文書(豊北町歴史民俗資料館所蔵)に対馬出漁関係史料が多数存在することを確認し、一部は収集も行った。未整理のものが多いため、本格的な調査は次年度以降に実施する予定である。
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