本研究は、近世西日本地域の中でも特に盛んに漁民の他国出漁が見られた対馬を対象として、その漁業の実態、漁民の移動の在り方などを分析している。本年度も、昨年度から継続して、対馬藩の藩政文書である「宗家文庫」(長崎県立対馬歴史民俗資料館所蔵)の調査を、平成14年9月11日〜9月14日、平成15年3月11日〜15日の2回にわたって実施した。中心となった史料は、対馬の漁政を管轄していた郡奉行所の「毎日記」で、昨年から引き続き漁業関係記事の抽出・撮影を進めた。本年度は、同毎日記の宝永3(1706)年〜享保7(1722)年分、慶応2(1866)年〜明治元(1868)年分について、調査・撮影を行った。また、それ以外の漁業関係史料が別の記録の残されている場合もあり、これについての調査も平行して行った。いずれも順次、対馬出漁史関係年表というデーターベースに入力、重要史料に関しては筆耕を進めている。この作業は来年度も継続予定で、この「対馬出漁史関係年表」および重要史料集は、最終年に研究成果報告書の中で公開予定である。この他、長崎県立図書館所蔵の長崎県庁文書について、対馬の藩政時代の漁業制度調査資料について調査を実施した。 また、対馬出漁漁民の内、釣漁・延縄漁を中心に取り上げ、これらの漁船による朝鮮海出漁と対馬藩の国境管理の問題を考察する論文2編(後掲)を、本科学研究費の成果の一部として公刊した。また、平成15年3月1日には、対馬出漁の盛んであった山口県豊浦郡豊北町の郷土文化研究会において、「長門北浦(豊浦郡)漁民の対馬出漁について」というテーマで、研究成果の一部を報告した。この報告では、昨年度から継続調査中であった豊北町矢玉浦の内田家文書等も利用し、出漁する漁民の側から対馬漁業史を分析したものである。この報告の内容に関しては、来年度の公刊に向け現在準備中である。
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