近世村社会においては、村内部や村落間において実に多様な紛争・出入が発生している。出入りの多くは、当事者間の話し合いによって内済処理されたが、そうした村レベルで落着できない一件は郡代役所などに所定の手続きを経て出訴された。本研究では、近世村社会において生起するそうした「公事出入」に注目して、その実態や、村の紛争処理システム(地域秩序維持装置)、さらには幕藩領主制支配との関連などについて明らかにすることを目的としている。 以上の課題を明らかにするため、まずは旧阿波・淡路両国を対象をして、藩領村々における「公事出入」関係史料を出来る限り博捜することに努めた。期間内に実施した主要な史料調査としては、蜂須賀家文書(国立史料館)、小野家文書・佐野家文書・菊川家文書(以上、淡路文化史料館)、大粟家文書(徳島県立文書館)、後藤家文書(鳴門教大学附属図書館)などがある。これらの史料調査によって、かなり体系的に良質の関係史料を収集することができ、(1)藩領における「公事出入」の具体相、特に「離婚」「不義密通」など村社会での女性問題、(2)組頭庄屋を中心とする「公事出入」の調停システムと共同体的諸関係との関連性などについて史料的に明らかにすることができた。その一部は、「研究成果報告書」に収録した。今後、収集史料の分析・検討を進め、如上の課題に迫っていきたい。
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