研究概要 |
本年度も権力神や関連するデータの収集を継続した。なおこれに並行し藩主の神格化やその関係事例に注目したデータ収集・解析も試みた。今後に継続作業が必要だが現段階では以下のような特色が指摘できる。 1,各大名家で誰が神格化されるのかにはいくつかのパターンがある。ひとつは「藩祖」と考えられる人物の神格化である。例えば鍋島佐賀藩では鍋島直茂という人物が18世紀後半(寛政年間)に松原社が創設され神格化する。これは豊臣政権・徳川政権初期に近世大名家の基礎をつくった人物であり、いわば近世大名家化を担った当主の神格化である。かかる事例は転封大名である黒田家でもみられ光雲神社への黒田孝高・長政の神格化も豊前中津より筑前福岡への転封時期の当主であり、近世黒田家の基礎を築いた当主の神格化といえる 2,中興者と目される藩主の神格化もある。熊本藩主細川重賢(1718-85)や広島藩主浅野斉賢(1773-1830)などが典型である。このパターンでは、大名家に関わる人物ではなく、一般民衆が創祠したものも少なくない。加賀藩主前田治脩(1745-1810)、館林藩主秋本志朝(1820-1878)などはいわば村の守護神・産土神となっており、民俗神化しているといえる。 3、創祠者や創祠時期についても様々なケースがある。上記の1では大名家の関係者(家臣団も含む)が祀ることが多いが、2ではこれに加えて先述の如く地域民衆による創祠がみられる。また時期は近世とともに近代初頭がきわめて多く、この場合、大名家の旧家臣とともに旧領民が新たな近代都市社会(旧城下町)の地域アイデンティティの中核に旧藩主を位置づけたものと思われる。
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