本年は、地域的広がりをもった武士の神格化の事例を広範に収集しつつある。 1、代表的なのは徳川家康(東照宮)である。これは全国の大名家が政治的目的で勧請する例が多いようだが、例えば、茨城県岩井市にみられるように東照宮を家の「うちがみさま」として祀る事象は、東照宮の民俗神化とでも呼べよう。これは近世武家領主の頂点に位置する徳川家康の神格が家の守護神・民俗神化するものだが、このような現象がどのような過程でまた全国的にいかに広がりがあるか、検討を加える必要がある。 2、全国的な武士民俗神化の事例が、平景清・加藤清正・曾我兄弟・南朝方武将(新田義貞など)のように例外的ではない点は注目される。史料的制約があり、神格化の経緯や実相などは今後の検証にゆだねざるをえないものの、当初、武士が有する「貴種」への羨望があるとの見通しを持っていたが、現世利益をもたらす民俗神との性格が強いと思われる。平景清の眼病治癒をめぐる信仰は、民衆の武士イメージを考える上で重要な問題を含んでいる。武士の強者ゆえの救済力とでもいえる民衆の心性がみられよう。 3、神格化がいわば地域限定型の広域性を有するものもある。山家公頼はその典型である。公頼は宇和島藩伊達家の家老で、仙台から入部後に政争で敗れ殺害、怨霊化したというが、公頼を祀った御霊神社は愛媛県を中心に瀬戸内海を囲む地域に広がっている。宇和島藩域を遥かに超える広がりをもつが、しかし瀬戸内海周辺域をはずれるものでも無いようである。なぜこのような広がり方をしたのかは不明であるが、武士の怨霊化が海上神としての民俗神化した事例と考えられる。 4、以上のように、広域的に神格化される武士の事例は、地域社会に限定的な産土神化・地域神化と同様に、武士の民俗神化の動向として考えられよう。
|