私は、論文「王権論の現在-日本古代を中心として-(『歴史評論』564号、1997年)において、今日の古代王権研究の課題が、王権を天皇・太上天皇・皇太子だけでなく、皇后(中宮)・皇太后・太皇太后の「三后」にまで及ぼし、それらの個々の「極」を総合した「多極構造」として把握される必要性を述べ、その上で、王権の多極構造に留意した個々の「極」の研究を進展させるべきことを指摘した。 本研究は、この点を推進させるために、平安期における皇后(中宮)・皇太后・太皇太后などの三后の動態把握と三后に関する基本史料の把握とを試みたものである。 このうち、前者については、「平安時代三后表」を完成させることができた。これは、桓武朝以降後鳥羽朝にいたるまでの各年次の三后(含む准三后・女院)が一覧できるものであり、三后の動態把握を簡便にするものである。後者については、データベース「平安時代三后関係史料DB(試作版)」を完成させることができた。これは、平安時代の三后の研究が、これまで限られた人物を対象としていたために三后の総体が把握できないでいる現状を打開するために試作したものである。その内容は、東京大学史料編纂所が編纂した『史料総覧』巻1〜巻3の三后関係綱文を利用し、年次毎に配列し、事項の典拠となった出典も一覧できるものである。 「平安時代三后関係史料DB(試作版)」は、「平安時代三后表」と関連させることで、平安時代の三后の動態を総体的に把握できる利便さを確保できるものと考えられるので、データ類の公開にあたっては、この点への考慮も考えている。これらの作成を通じて得られた研究の成果の詳細は、科学研究費補助金研究成果報告書「三后制の基礎的研究-平安期を中心として-」(課題番号13610395)に盛り込んでおり、平安期の三后制が、古代王権史に占める重要な意義と今後の課題を明示している。
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