平成13年度から同15年度にいたるこの研究には、2つの目的があった。第1の目的は、明治初期において政府が国家的事業として開始した地誌の編纂事業のうち最大規模の皇国地誌の調査である。皇国地誌は日本地誌提要やこの後編纂を計画した大日本国誌とは違っていわゆる郡村誌をそのまま一つの州ごとに纏め(「1州志ニ纏メ」)完成するというものであった。全国的には完成せず提出分はほとんど焼失した。わたしはその史料の重要性を認めて長年地方での残存状況を調査してきた。この報告書は、四国地方の調査の概要を纏めたものである。第2の日的は、皇国地誌を利用した神仏分離の計量的研究である。政府が実施した神仏分離はこの地誌の対象とする明治9年には終了しているので、当時・当地の史料として貴重である。明治初年において、四国では廃藩置県後県の廃合が繰り返された。最終的には、明治13年3月2日高知県から徳島県が分離・独立し、明治21年12月3日愛媛県から香川県が分離・独立して、こんにちの4県が成立した。それ以前の廃合の盛んな時期に神仏分離と皇国地誌の編輯がおこなわれた。皇国地誌については1県として完成したものはない。また郡単位にみても完全なものは殆んどないが、明治9年1月1日現在の社寺数の記載が多いことは貴重である。しかし史料的に必要とする「古跡」の欄に、他地方の諸県とは違って四国地方の郡村誌の多くが廃寺跡の記載を欠いていることは残念である。
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