過去2年間の史料収集を踏まえて、2003年度は史料の追加調査と全体の研究成果のまとめを始めた。日本国内にある既刊の史料群、外交史料館所蔵の外交記録・中国や台湾の档案館所蔵の外交史料を解読、分析する作業を進めるなかで、昭和戦前期における外務官僚の対中認識を幾つかの系譜に分類し、それぞれの系譜に属する外交官の対中認識と国際戦略についての分析を行った。論文として完成した「日中新条約関係の挫折」は、幣原外交期の外交官等の「統一中国」への認識および「革命外交」への対応を分析し、満州権益をめぐる「支那通」外交官の限界を描いた。また、現在執筆中の「有吉大使時代の中国政策」は、対中協調路線を主張した有吉明が、軍部の強硬路線が台頭する中で、如何に外務省の独自性を維持し、日中関係の悪化を防止する諸政策を展開したかを分析したものである。 いよいよ来年度は本研究の総括に入るが、著書『「支那通」外交官の中国政策』(仮題)をまとめることを最重要課題とし、この著書を通して、近代日中関係の齟齬と摩擦の原因を外交政策の立案に密接に関係する外交官の角度から究明していこうと思う。執筆にあたり、アメリカにある関係資を追加調査し、日本の学者のみならず、中国、台湾、香港、アメリカなどにいる中国史、日中関係史の研究者の意見にも耳を傾け、彼らのアドバイスを積極的に取り入れていきたいと思う。本研究期間の終了と共に、著書を脱稿し、広く歴史学界に研究成果を発信したいと思う。
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