4年次計画の第2年度にあたるので、基礎的条件の整備とともに、懸案の『豊臣秀吉文書集』の刊行にむけての具体的準備に着手した。文書については、前年に引き続いて東大史料編纂所をはじめ多くの史料所蔵機関に赴いて調査・研究を行い、幾つかの未紹介文書や、これまで不明とされていた文書の原本に接することができた。個々の文書については、正確な釈文や史料綱文の作成と同時に、文書名称、無年号文書の年代比定、人名・地名等の確定、出典や原文書の所在確認などの作業が必要となるが、この作業は現在も継続中である。 『豊臣秀吉文書集』そのものは、収録すべき文書が1万点近くあるため、数冊ほどの分量にのぼり、完結するまでに10年以上の年月が予想される。また、種々の理由から、刊行は公共機関を基盤にして(通常の出版社からではなく)行うことを考えており、現在、事前折衝をすすめている。そのためにも、本研究の終了時点で、その第1冊にあたる天正10年までの「準備稿」を完成し、関係諸機関や同学の研究者の批判を仰ぐつもりでいる。 当該期に発給された文書の史料学的研究は、上記の作業をすすめるうえで必要であるが、文書を生み出した政治的・社会的状況のなかで検討することが求められている。本年度では「国掟」についての考察をまとめた。これは、実態が不明確な信長の「越前国掟:ではなく、天正8年に制定された秀吉の「因幡国掟」を扱ったもので、近刊の「商経論叢」38巻4号に発表を予定している。また、豊臣秀吉(その一族を含む)文書の史料的性格を、織田信長・徳川家康や多くの戦国大名文書と対比のうえで明らかにする作業も行っている。
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