本研究では二つの方向からアプローチを行った。一つは、大分県直入郡・大野郡地域における環境歴史学的調査である。もう一つは、中世の絵図を環境歴史学視点から読み直す作業である。 前者は、学生の協力を得て、7月16日〜18日と3月24日〜26日の2回に分けて、直入郡荻町の直入郷葎原名の故地で耕地の復原的調査を実施した。昨年は、典型的なイノコ灌漑と呼ばれる湧水灌漑の迫田の残る三宅地区と河川灌漑を基本とする大田、倉木地区を調査した。今年度は、近代までほとんど畑作地帯であった荻町の荻台地の上に展開した葎原名を戦国時代の土貢帳を基に復原を試みた。ここでの復原は、畠の復原的調査の確立を目指すものであったが、水田に比べると、調査法の確立が困難である。なお、3月の調査では昨年の調査地区三宅地区の補足調査を実施し、昨年度、今年度の調査をまとめることができた。 後者は、伯耆国東郷荘絵図、尾張国富田荘絵図、相模国鶴見寺尾絵図の3つを扱った。伯耆国東郷荘絵図は、原本調査が困難な状態にあり、東京大学史料編纂所の写本の調査を5月に行い、12月に現地調査を実施した。東郷荘は黒田日出男氏の絵画史料論の確立の出発になった絵図であり、今回の調査では、環境歴史学的視点を組み込み、新しい解釈を試みた。その成果は、論文原稿としてまとめており、来年度の5月の荘園絵図研究会の例会において発表を行う予定である。鶴見寺尾や富田荘については、8月と2月に簡単な現地調査を実施しただけで、来年度も継続して調査を行う。この地区は都市化が進んでおり、調査が困難であるが、新しい調査方法を考えてみたい。
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