農民日記や庶民の日記に関する研究推進を意図した当研究は、現在の研究状況の立ち遅れに影響され、良質で未刊の日記史料に関する史料情報の収集、中身の豊かな農民日記の解読とその入力による全文テキスト化に比重をかけることとなった。今年度の現地での収集・調査は、昨年度に引き続いて愛知県稲武町古橋懐古館にて行った。名主古橋源六郎(暉皃)の書き記した日記のうち明治初年の部分を調査し、収集にあたった。暉皃は、明治元年に三河県、明治2年に伊那県に出仕したので、明治初年は家の日記とは別に出仕時の日記がある。それは、メモのままであるが当時の西三河地方の動向をよく書き記しているので、調査時に解読筆写を進め、デジカメに収めた分は、素読を続けている。また、鹿児島県下の既刊行日記「守屋舎人日帳」は、入手の上内容の上質なことを確認し、現地の調査も行った。その他には現地に直接出かけないで、15の日記について、名称とその変化、筆記者の出身地・階層、日記の内容・年代等を、できるだけ詳細にリストアップする作業を行った。このリストは、「研究成果報告書」の一部に所載する。さて、入力済みの全文テキストから如何に歴史的情報を抽出するかが今年度の課題の一つであったが、この点は東京都多摩市の「富沢家日記」を素材として推進した。すでに入力分10年に5年分を加え、15年分について人物名、地名、事件、交際・信仰など、情報をとりつつある。その具体的な内容は、一部を「幕末維新期の日記史料研究」と題して「立正大学文学部研究紀要」20号に発表した。このような全文テキストから情報を引き出す試みは、いくつもの日記を素材として行ってみる必要がある。さらに歴史的情報抽出の方法を工夫すれば、農民あるいは庶民の日記史料研究をさらに大きく進展させることができるものと考えている。
|