本研究は、日本における戒律伝播の歴史を聖教資料から調査・研究を目的としている。(特に中世〜近世) 中世篇として、東大寺や泉涌寺に所蔵される戒律関係聖教を調査した。東大寺は、平安〜江戸期に書写・印刷された477点がある。特に、奈良・西本寺、京都・泉涌寺等に鎌倉期に印刷された資料が多く残されている。泉涌寺は、73点所蔵している。全資料は、中国・南宋時代に印刷された経典の復刻本であり、泉涌寺版といわれている。元々、奈良・大安寺、東大寺戒壇院で所蔵されていたが、15世紀末、泉涌寺に移管されている。 17世紀はじめ、京都・西明寺明忍(1576〜1610)から始まった戒律復興の動向は、大阪・野中寺恵猛(1613〜1679)、大阪・神鳳寺円忍(1609〜1677)らが中心に復興され、戒律道場としての役割をもつ寺院となっていった。この三寺院(三僧坊といわれる)で所蔵される戒律関係図書・記録等の調査を行なった。西明寺は213点、野中寺は1272点、神鳳寺は197点を調査した。三寺院とも、大半が江戸期に書写・印刷された資料であるが、これらの多くの資料は、江戸期において戒律がどのように伝播していったかを明示している。三寺院の戒律関係図書・記録等調査は、今回初めて実施された。今後、江戸期の仏教史研究に大きく寄与するとおもわれる。
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