研究代表者は以前からパレスティナにおけるイスラーム化の問題に興味を持ち、研究課題に関連するアラビア語文献の収集をかなり進めていたので、本年度は最近の最先端の研究動向を把握するために、欧米や中東で刊行された研究書及び研究論文を収集整理し、データベース化することから着手した。その結果、アラブ諸国における研究はあまり進んでいないこと、欧米及びイスラエルにおいてはかなり研究が進んでいるが時代・テーマに偏りがあることが分かった。初期イスラーム時代に関しては文学・神学論争の面からイスラームの影響力の拡大を詳細に研究した優れた論文が存在するが、社会史的観点に立った研究はマムルーク朝時代(13〜16世紀初頭)まであまり存在せず、その空白を埋める必要性があることを認識し、現在史料研究を進めている。また、ヘブライ語文献の利用とイスラエルにおける研究成果を活用する必要を強く感じ、ヘブライ語の修得を進めている。 イスラエルにおける優れた研究実績とヘブライ大学所蔵の資料を参照するために、本年度の海外旅費はイスラエル出張に当てる予定であったが、昨年以来極めてパレスティナ情勢が悪化し、治安に不安が大きいだけでなく、研究機関の利用にも制限が強いことを配慮して、ユダヤ研究の進んでいるドイツのハイデルベルク大学附属機関であるドイツユダヤ研究文書館とユダヤ研究高等学院を訪問し、パレスティナ関係の資料を参照すると共に研究者と意見・情報の交換を行った。史料研究において本年度は、12世紀以前のパレスティナにおける移住(自主的・強制的)や戦闘・天災に伴うキリスト教徒人口の変化を跡づけ、イスラーム化の基礎となる人口構成の変化を具体的に辿ることができた。来年度はさらにこの研究を改宗問題とユダヤ人共同体の変化にまで進めたい。
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