昨年度において、当該研究に必要とされるアラビア語・シリア語・ギリシア語・ヘブライ語史料、及び欧米各国と中東で出版された研究書や研究論文をかなり収拾することに成功していたので、本度は、資料の整理と分析研究に重点を置いた。文献研究を通じて、初期イスラーム時代に関しては(1)パレスティナにおけるキリスト教・ユダヤ教・イスラームの共存形態には、それ以前のシリア・パレスティナにおけるヘレニズム化とギリシア文化の影響が深く関わっていたこと。ヘレニズム化の程度が後のイスラーム化の進行度に大きく関わっていたこと。 (2)特にパレスティナにおいては、北アフリカと並んでギリシア語文化が皮相的とは言いがたいレベルで浸透し、イスラームの拡大に対峙する重要要素となっていたこと。 (3)イスラームからの社会的・文化的圧力が、メルキト派においては信徒のアイデンティティの確立と教会組織の強化を導いた検証されること。 (4)イスラーム化とは異なり、アラビア語化はパレスティナにおいては急速に進行したと見られること。 等が明らかになった。その後のイスラーム化の状況とキリスト教徒のマイノリティ社会に関しては、(1)イスラーム政権の積極的な聖地イェルサレムへのイスラーム化政策が、イスラームの拡大とキリスト教徒のマイノリティ化に関わりを持っていたと検証され、この政策は特殊パレスティナ的なものと見られること。 (2)十字軍時代まで、教会・修道院を中心としたギリシア語文化はアラビア語文化と併存して繁栄していたと考えられること。 (3)マイノリティ化の後のキリスト教徒社会は、各地にコロニー的に点在し、イスラエル建国に至るまで独自の文化と社会構造を保持していたこと。 が史料から検証された。 資料収集は、平成14年9月21日から29日までプリンストン大学、30日から10月9日までヘブライ大学で行い、希少な文献をかなり入手した。
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