当報告書は5つの部分から成り立っている。第1部の「問題の所在・研究目的・成果」においては、イスラーム社会における非ムスリムマイノリティの研究に関する先行研究の動向を確認し、当該研究の理論的枠組みと方法論の設定を行った。第2部「近代パレスティナにおけるキリスト教徒マイノリティ社会」においては、現在のイスラエル/パレスティナ地域におけるキリスト教徒マイノリティの人口統計学的・宗派構成的実態を確認した上で、オスマン朝期の人頭税記録から検証されるイェルサレムとその周辺地或のキリスト教徒人口の分布・宗派構成等を検討し、キリスト教徒社会の都市集中化現象や宗派構成の地域的変化を解明した。第3部「初期イスラーム時代のパレスティナにおけるキリスト教徒社会」では、人口構成的にはマジョリティではあるが政治的・社会的には2級市民と位置づけられたムスリム支配下のキリスト教徒に関して、ムスリムの征服以前から状況、征服後の社会的位置づけ、キリスト教徒社会を主導する教会の実態等を文献学的に解明・分析し、キリスト教徒社会変容とその弱体化に関して考察を行った。第4部「中東キリスト教会の歴史」では、当該研究をさらに大きな視野に立った中東全体のマイノリティ研究に広げるために、参考資料として中東各地に分布する東方キリスト教諸教会の歴史を通時的に纏めて提示し、その衰退とマイノリティ化の経緯と原因を個別的に検証した。第5部「パレスティナ史に関する中東言語史料」では、研究の遂行の過程において明らかとなった、当該研究課題に有用な前近代パレスティナ史関連資料を纏めて提示した。
|