これまでの研究において、科学研究費を使用して日本国内の主要な図書館・文書館はもとより、国家図書館(北京)、上海図書館、上海市トウ案館、南通図書館、南通市トウ案館を数回にわたって訪問し、主にデジタルカメラを使い、各館所蔵の関係する史料を収集に努めたが、その成果をまとめる作業を行った。また、史料収集で若干不足しているものがあったので、それを補うために16年度に、再度、上海図書館にて史料収集を行った。その結果、以下に述べるようなことを明らかにし得た。 立憲制・地方自治の実施が計画され、着手される中で、中国社会では、伝統的儒教的知識に代わって、近代的社会科学的知識、近代的法政的知識が極めて重視されることになった。江南地域においては、立憲・地方自治を準備する過程において、清朝政権が地方自治実施を打ち出す以前から上海の地方公益事業に携わっていた地域エリート等と、日本留学を果たして近代的社会科学的知識、近代的法政的知識を修得した地域エリート等とが、法政団体や教育団体等の諸団体の結成を通じて結合していった。そして、省議会の前身とも言うべき諮議局設置の準備や、議員選挙を通じて、江南地域エリートのネットワークは江蘇省全域に拡大し、やがては全国的な立憲運動を牽引していくことになった。また一方で、地域エリート等は立憲制・地方自治の実施に付随して行われた諸社会調査にも従事し、地域社会を把握しつつ地方自治に参加し、地域社会の発展に携わっていった。これらの調査は地域エリート等の社会管理の進展にもつながっていった。以上のような経緯をたどって、地域エリート等は、地域の発展と近代的国家形成の達成とは、不可分のものと認識していた。
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