今年度は当該刻文史料の網羅的チェックと刻文テキストの収集を開始した。 前者に関しては、東京出張等で、Annual Report on Indian Epigraphyを利用して、そのデータベースを作成してみたが、思いのほか時間を要すことが判明したため、このシリーズを次年度の科研費で購入する予定である。 今年度の主要作業である後者、すなわち刻文史料を掲載する英文およびヒンディー語学術雑誌の網羅的なチェックについては、当初予定していた大英図書館よりも、同じくロンドンのSOASの図書館のほうが関係雑誌の所蔵が豊富であり、そこで1000枚を越える刻文史料関係のコピーを得た。しかしなおチェックしきれず、あるいはもう一度出向く必要があるかもしれない。 なお大英博物館にてヴィクラマ暦1192年の銅版文書をはじめ数点の刻文、およびその拓本をデジタルカメラで撮影してみたが、その効果はきわめて高く、撮像の拡大やネガ化、色調の調整等によって、かなり読みやすくなる。その程度は現物を目の前にしていることとほとんど変わらないほどである。ただし、ネルー大学のChattopadhyaya教授によれば、現地インドではこうした撮影は必ずしも許可されるとは限らず(とくに考古局、博物館所蔵のもの)、あるいは今後の展開によっては、デジタルカメラによる撮影は寺院等に現存する公開されている石碑に限られるかもしれない。 以上のように実際に網羅的なチェック作業を始めてみると、当該の刻文史料が予想外に厖大であることが判明してきた。ただし、その大部分は判読不可能な部分の多い断片的な刻文であり、本研究が特に重視したい在地の権力構造や社会関係を伝えるものは思いのほか少ない。今後も網羅的な史料収集に努めると同時に、前者のような断片的な刻文の利用方法を考える必要があろう。
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