今年度は大きく分けて二つの作業を行った。一つは前年度からの継続作業で、13〜15世紀ラージャスターン、グジャラートのサンスクリット語およびヒンディー・グジャラーティー系諸語の刻文史料(銅板文書、寺院石碑、英雄記念碑(hero stone)、サティー記念碑など)の収集である。 当該刻文をAnnual Report on Indian Epigraphyなどの刻文リストから網羅的に抽出し、データベース・ソフトに入力すると同時に、可能な限り学術雑誌(その多くはヒンディー文雑誌)に掲載されている刻文のテキストを収集した。データ抽出もその整理もまだ作業半ばであるため断定的なことは言えないが、当該期の刻文は、それ以前(12世紀以前)と比較して、英雄の戦死やサティーを記録した記念碑(Memorial Stone)の占める割合がかなり高くなっている。それに引き替え、前代では刻文の圧倒的多数を占めていた寄進碑文や銅板文書の割合がかなり低くなっているように思われる。このこと自体、何らかの説明を要するであろう。 二つ目は現地でのフィールドワークである。2月にラージャスターンに入り、デジタルカメラおよびビデオカメラでおよそ50本の刻文の撮影を行った。主な訪問地はアジメール博物館、サルダール博物館(ジョードプル)、マンドール博物館およびオーシアーンのサチヤーマーター寺院とマハーヴィーラ寺院である。とりわけアジメール博物館では当該期のきわめて興味深い刻文が所蔵されており(たとえばLadnu Ins. VS 1373; Manglana Ins. VS 1272など)、それらの撮影に成功したことは今年度の大きな成果の一つであった。
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