本年度は昨年度に引き続き、まず関連資料の追加蒐集に努めた。特にエジプト・カイロの国立文書館(Dar al-Kutub)に於いて、申請テーマに密接に関連する写本(『Mikhtasar Ighathat』)を調査・閲覧し、複写することが出来た。同じくカイロのアラブ連盟写本研究所、及びアラブ連盟大学付属図書館においては、他の写本史料を閲覧した。また、日本から関連の図書資料を蒐集しただけでなく、カイロ市内でも申請テーマに関連する図書資料を集めた。 同時に、エジプト「死者の街」に埋葬された人々のデータベース入力作業を本格化させた。昨年度すでに基本となる枠設定・項目選択を行っていたが、入力作業の進行とともに不備が目立って来たため、入力項目を全面的に見直し、修正を施した。その結果、項目は、参詣所名、被葬者氏名(通称、尊称、添え名など)、性別、生没年、家系全般の情報(結婚歴、配偶者、家族情報)、アフル・アル・バイトか、身体的特徴、職業、空間移動(生没地、遍歴地など)、知的背景(教友・後継世代か、ムハッディスか、ハディースの系譜、法学派、神学派、師弟、交友関係、学歴、著作、スーフィーか、所属教団、スーフィーとしての系譜)、被葬者の形容、被葬者のカラーマ(奇蹟/美質譚)(生前・没後)、被葬者の逸話、墓に関する情報(位置、形状・素材、縁起、参詣対象か、参詣慣行、祈願成就の有無、祈願内容)、その他、出典元などから構成されることとなった。 その上で、入力作業を継行したが、データ自身が膨大であることに加え、各データの含む逸話も長大で、難解なものを含むため、若干難航した。しかし、入力補助も得て、参詣書『Murshid al-Zuwwar』の基本データは漸く入力を終え、さらに現在『Kawakib』を入力中で、これ迄の入力項目総数は400余りに上る。 さらに、昨年12月から本年1月にかけて、やはり現地エジプト死者の街に於いてフィールドワークを行い、史料中に示された墓地のトポグラフィーと死者の街の現況を比較踏査した。今回は昨年用いた参詣書より後代に著された参詣書『Tuhfa al-Ahbab』とその校訂本註釈に基づき、墓地の変遷を後づけることが出来た。また、カイロ大学のM.アフィーフィー教授から助言を得たほか、現地に於ける欧米研究者との交流から、来年度、カイロ開催の国際学会で本研究の成果を口頭発表することが決定している。
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