研究概要 |
本年度もまず、研究課題にそった史料・研究書を調査・募集した。とくに、エジプト・カイロの国立図書館(Dar al-Kutub)やアラブ連盟大学付属写本研究所における写本調査において、従来看過されてきた参詣書写本を再点検することによって、参詣書の記述年代などにこれまでの学界定説を覆す新知見を得ることが出来た。 そして、本年もエジプト・カイロの「死者の街」に埋葬された人々のデータベース入力作業を進めていった。入力項目は、参詣所名、被葬者氏名(通称、尊称、添え名など)、性別、生没年、家系全般の情報(結婚歴、配偶者、家族情報)、預言者の血筋か、身体的特徴、職業、空間移動(生没地、遍歴地など)、知的背景(教友・後継世代か、ハディースの系譜、法学派、神学派、師弟・交友関係、学歴、著作、所属教団、スーフィーとしての系譜)、被葬者の形容、被葬者のカラーマ(奇蹟/美質譚)、被葬者の逸話、墓に関する情報(位置、形状・素材、縁起、参詣慣行、祈願内容)、出典元などから構成した。 今年度は特に、参詣書『Kawakib al-Sayyara』を中心に『Tuhfa al-Ahbab』まで入力を進めたが、『Misbah al-Dayaji』については全体のデータは確認したものの、入力の完了は今後の作業に委ねられることとなった。この上で得られたデータの分析作業を行い、特に聖者崇敬とスーフィズムの問題や、死者の街における空間構成について新説を提示することが出来た。後者はトポグラフイーと参詣書データの照合に他の伝記集史料も加えて総合的に考察することによって可能となった。 さらに、カイロでは前述の写本調査と共に、死者の街におけるフィールドワークを継行した。関連の国際会議『マムルーク朝期エジプトにおけるスーフィズムの発展』(5月,カイロ)への参加は諸般の事情から見送られたが、本研究の成果は同会議の報告書に併録・公刊される予定であるほか、国内で学界誌や口頭に発表された。
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