昨年度に引き続き、中核的な資料となる巴県档案を中心に、資料整理と分析を進めた。巴県档案資料の原文のデータベース化を続行し、昨年度作成のデータを充実させた。またこれを明清時代の小説等資料等の全文データと合わせることによって、昨年度始めた語彙検索・事例検索システムを充実させた。これらデータベースのもつ辞書機能を用いつつ、案件ごとの読解を行い、経営要因を登録するデータベースを拡充した。 こうした資料整理を進めつつ、主に運輸業と商業を中心として、経営構造の分析を進めた。民事案件資料に含まれる極めて個別的で具体的な資料によって、刊本資料を中心とするこれまでの中国史研究では掴めなかったレベルまで、企業の経営行動を追跡することが可能となった。これらによって昨年度の「研究実績の概要」において提示した明清時代中国における経営の特質の骨格が、個々の付加価値の形成過程、使用人の個別的な行動と規制のあり方に即して、立論可能性を強化された。 これらの作業と並行して、社会構造と経営構造の関係についての国際的な歴史比較の準備作業を行った。団体型社会である日本・ヨーロッパの経営構造の発展を、非団体型社会中国における経営構造と比較するとともに、さらに中国と同様に非団体社会を基盤として帝国を築きあげたイスラム社会について、その政治・社会システムの輪郭と経済的な行動様式を整理して、中国との基本的な類似性を踏まえて比較研究する筋道を纏めた。
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