本年度は主として明清時代の民間宗教西大乗教の研究と宝巻の収集に多きな成果があった。 先ず、平成14年10月31日から11月6日の間の中国訪問で、北京の国家図書館と大鐘寺博物館において、西大乗教の根拠地保明寺に残された石碑の拓本と梵鐘の銘文を閲覧した。また、天津においては、天津図書館で西大乗教の宝巻を3点収集することができた。これらの史料により、中国の明代(1368〜1644)初期に始まり、華北の民間宗教の淵源の一つと考えられる西大乗教の歴史と教義を明らかにするめどがたった。この研究は従来の学説をかなり大きく変更するものとなる。 次いで、平成15年3月13日から21日にかけての中国訪問で、再度北京と天津を訪ね、西大乗教を中心とする民間宗教に関する史料を収集した。先ず、北京では国家図書館と大鐘寺博物館で西大乗教の本拠地保明寺の石碑の拓本と関係史料、そして梵鐘の銘文を改めて調査した。また、天津図書館においては、西大乗教関係の宝巻を含む十種類ちかくの宝巻を閲覧し、その一部を複写した。 この調査を通して、保明寺の創建と西大乗教の形成と展開の過程がより明らかになり、それにともなって、明代の華北における民間宗教諸教派の形成過程を明らかにする研究がいっそう進展した。この成果の一部は「明代の保明寺と西大乗教」という題目で本年6月に発表される予定である。(次頁参照) 西大乗教の研究は以下の点において重要である。(1)宝巻流民間宗教の教義の形成過程とその特質が明らかになる。ことに東大乗教・大乗円頓教等のいわゆる大乗教系民間宗教の教義の形成過程が明らかになる。(2)民衆的組織としての民間宗教の存在形態、その社会的機能が明らかになる。ひいては中国的民衆社会の特質が明らかになる。以上のことは、数年以内に刊行する予定の専著の内容となる。
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