本研究の目的は、従来の歴史学研究の中心であった文献史料の研究にとどまらず、聞き取り調査を重視し、写真史料などの分野をも視野に入れながら日中戦争期に「国際都市」上海がどのような変容を余儀なくされたか、その全容解明を目指すものである。この研究・調査で入手した史料を使用して日中戦争期(1937〜45年)の「国際都市」上海に関する論文を作成・発表した。また、写真史料の一部は日本大学文理学部のデジタルアーカイブにおいて公開することを予定している。 私は戦前の上海日本人居留民関係者から聞き取り調査を行い、彼らの上海イメージは複雑な様相を示していることを明らかにし、それを職業・年齢・ジェンダーなど要因から分析した。また、聞き取り調査や回想録を利用して上海日本人居留民の引揚者たちの「上海ノスタルジー」という感情の歴史的な形成過程を検証した研究を行い、「上海日本人引揚者たちのノスタルジー」と題する論文にまとめた。私は、日中戦争期における上海に関する一次史料である木村英夫の遺稿『亜細亜再建秘録-敗戦前夜』を熊本において発見し、同遺稿を校閲し解題を付して、『日本占領下上海における日中要人インタビューの記録』として刊行した。日中戦争期における「国際都市」上海の変容を検証した研究としては、「日中戦争期における『上海租界問題』」と「日本占領下における『国際都市』上海」の二論文をまとめた。前者は日中戦争期における「上海租界問題」に関する日本側の認識と対応を考察することを主要な課題とした。後者は日本軍の上海租界への進駐に伴う上海外国人政策及び外国人居留民の状況を検討することであり、それを通じて日本占領下において「国際都市」上海がどのように変容したのかを実証的に明らかにした。
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